ぐしんだけ(三角点 狗神岳899.39m) 水の積むや厚かざれば、則ち大舟を負うに力なし→水にある程度の深さがなければ、大きな舟を浮かべることはできない。同様に、十分に学問・修養を積まなければ、重い任務にあたることはできない。
↑@  
















↑A



↑B



↑C



↑D


↑E北寄りピーク
岩塔がマタギの行く手を阻む山稜、恐れの心を鍛錬する道南の秘峰

三角点:点名 狗神岳 等級 三等三角点 地形図 室蘭−濁川 WGS84緯度 42°3′31″.8045経度 140°25′56″.5806標高 899.39m 座標系11(X) -215612.847m(Y) 15095.178m 所在地 森町字逆川 点の記図 なしAY00043S:J1UpXp】

 2007.03.02/um・ka氏と3名→函館(5:00)→山蕗公園P260m(6:15-6:24)→乗越し430m(7:30)→釜別川290m(7:56-8:09)→標高点493m(8:42-8:54)→支尾根分岐690m(9:39-9:52)→ワカン装着820m(10:19-10:30)→山頂899m(11:00-11:42)→釜別川300m(13:23-13:45)→乗越し430m(14:00)→山路公園p260m(15:00)→函館着(16:30)→(kash沿距5.5km+827m-206m時間2:26)

 狗神岳は濁川支流の澄川と落部川支流釜別川を分つ分水嶺上にある。中央分水嶺から北に離れて「狗神岳」、南に離れて「峠下無名峰」がそれぞれ4km離れて対峙する位置にある】

 コースの地質:ルート上は、中新世後期の黒松内層相当の下位から砂岩部層、凝灰角礫岩部層、火山角礫岩部層と累重して続き、釜別川に背斜軸があり傾斜はほぼ20°で西に傾く。釜別川渡渉箇所に黒松内層堆積末期の噴出とされる流紋岩が露出している。山蕗公園駐車場から乗越まで微砂岩層の小じわが多い地形である。乗越から小沢を下降し(下降の小沢に断層が走る)釜別川を渡渉して400m台までの範囲が風化が進んだ流紋岩が顔を出している。400mから砂岩層の安定した尾根になる。600m付近から凝灰角礫岩の急傾斜の地形が現れる。700m台に至ると火山角礫岩層域に入り、いよいよヤセ尾根、岩角地、ナイフリッジ、狗神岳付近の岩塔の地形が現れる。】

 ヒメコマツ:厚沢部町鶉川源流域「峠下無名峰」の北東斜面に国指定天然記念物 「鶉川ゴヨウマツ自生北限地帯」 S3.2.7指定。様似町の国指定天然記念物「幌満ゴヨウマツ自生地」S18.8.24指定がある。太平洋側自生北限は十勝に近年発見された。銀婚湯上流上二股川沿い左岸のヤセ尾根には渡島半島で最も高い密度のゴヨウマツが自生している。日本海側自生北限はヌタップの五葉沢源流にあり、渡島半島の太平洋側自生北限は落部川にある。釜別川と上二股川の両左岸は急峻な斜面である。それは黒松内層の「受盤」と対応している。さらに地質構造と対応しているヤセ尾根の配置は高い密度で自生しているゴヨウマツの立地となっている。

 温泉:温泉名 落部下の湯 深度(m)800 温度(℃)38.7 流量(l/min) 103.2 pH6.4 泉質Na-Cl・HCO_3 温泉名 落部川中流(金婚湯)深度(m)580 温度(℃)73.7 流量(l/min)193.7 pH 6.9 泉質Na-Cl・HCO_3 温泉名 上の湯 深度(m)1300 温度(℃)98 流量(l/min) 724 pH7.5 泉質Na-Cl・SO_4 温泉名 濁川 深度(m)300 温度(℃)95 流量(l/min) 3359 pH8.6 泉質Na-Cl・HCO_3,Na-Cl】


岩塔と岩稜と岩壁の狗神岳を見た者は、それが為す山容の故に心をとらえられて離さない@。魅力的で記憶に残る山である。その風景は、恐れる心を克服する修業の山。六根清浄の修験者の世界にも通ずる何かを感じさせものがある。見たものの心をしばし離さない山容だが、街道筋から山合の道を辿り濁川カルデラ盆地のさらに奥に進んでダムサイトに上がらなければその姿はない。鳥崎マタギや杣夫から尾根をつないでも戻される割れた岩が切り立つこの山の話を聞いていたが、登山の対象として狗神岳を聞いたのは最近のことであった。「北海道の山と越後の山03年3月21日同行Hさん」の狗神岳のページからも、鋸歯状に並ぶ岩塔や崩れそうな岩や、雪をもとどめない絶壁が切り立っており、さすがに容易には人を寄せ付けない尊厳さが漂ってくる。

狗神岳へ明日行くぞとsa氏から同行の誘いがあったが、明日の予定を調整する必要があった。私には第一級の秘峰だから心の準備がさらに必要だった。機会を逃すようで残念ではあったが同行は断念した。だがしかしチャンスの前髪はすぐに続いて来た。峠下無名峰(下俄郎)登頂後に、um・ka氏らと狗神岳へのアプローチ研究のため山蕗公園や濁川盆地を訪ねていた。um・ka氏は「中央分水嶺踏査」の時に目にした「狗神岳」に心曳かれて、かねてからルートの研究をすすめていたのだった。sa氏から一日遅れて頂上を目指すum・ka氏らの「前髪」を私はつかむことにしたのだ。八雲・厚沢部街道から乗越して釜別川に入る西陵ルートである。「北海道の・・・」にあるha氏ルートは高い技術が求められるからもともと私には望めない。

函館を5時に発って、中山峠経由で車デポ場所の山蕗公園駐車場に6時15分到着した。それぞれ厳しさを覚悟しながらだから、日没から逆算して行動中止は12時00分だろうとまじめに話したりした。駐車場からc600m程度下って、上二股川が大きく西に蛇行するところの浅い川床を渡渉して右岸に出た。三角点滝ノ沢c652mから北方に延びる尾根の最低鞍部乗越に向う間は植林地が多い。沢も尾根も比較的穏やかな地形だから植林が盛んな流域になったのであろう。それは、黒松内層の背斜軸が釜別川にあり、山蕗公園側の上二股川に向って緩やかに傾斜している地質構造に遠因がある。いわゆる泥・砂岩が「流盤」になっているから緩やかな地形をつくっている。変わって乗越から釜別川に下りる斜面は「受盤」で、地層が傾斜に抵抗しているために急斜面になっている。釜別川左岸は崩壊も激しい。釜別川側に下りた小沢は断層に沿う弱線だから侵食崖、崩壊地、小滝になっていた。デブリもあるから雪崩がチョット気になる沢を釜別川に下りた(断層ラインは流紋岩と泥・砂岩の地質界)。

流紋岩の河床の釜別川の水深は浅く、難なく渡渉できたA。渡渉地点から直ぐ、トドマツ植林地の北端にある西陵ルートに取り付いた。おそらく西陵ルートの北にある狗神沢下流域は、断層、泥岩、受盤、風化した流紋岩の地質構造だから崩壊斜面や小滝が連続していると思われた。だから狗神沢ルートは時間を短縮できそうだが、沢をつめるのは極力避けたいと思った。待ちかまえる困難に緊張しながらも凝灰角礫岩の急斜面までは、キタゴヨウBやブナ林のたたずまい、むかう頂から派生する大斜面や目指す峰のスカイラインの遠望を楽しみながら順調に高度を稼いだC。空は青く、風はない。春山到来を告げるクマゲラのドラミングが谷間に響いていた。

標高650mからいよいよ緊張の地形が始る。正面の岩尾根を避けて左側の谷頭の大斜面のトラバースだが、もうチョット雪が堅ければアイゼン装着も必須の急斜面だった。ピッケルをしっかり握りながらもc690mの派生尾根に立った。またまた岩場が続いていて西陵にはとても這い上がれない。ここでおっかないデブリがある斜面に飛び込むことになるが、昨日のsa氏の踏み跡がある。お陰で先のルートに確信はないがルートファイティングの苦労はない。慎重なトラバースの後にc750mの西陵にやっとの思いでよじ登った。ここの岩尾根は、作図に問題があるのか、読図が浅いのか地形図からはなかなか読めない。

雪庇の下を覗くとオーバーハング状の岩壁にコメツツジが叢に生えている。すすむ尾根は、筒状に巻いた葉っぱがぶら下がるハクサンシャクナゲが続くナイフリッジだ。コメツツジのブッシュは、足を踏み外したとしても身体を支える足しになる。ビビる心を少しは和らげてくれた。ツボ足で上がってきたがc750mで慎重を期してツメ着きワカンを着用することにした。右・左と、危険ラインを雪庇に描くことを強いられる登りが頂き直下まで続いた。高さ20mばかりの右に落ちる崖の向こうに、馴染みの駒ヶ岳の雄姿が突然飛び込んできたD。何という白さだ!輝きだ!狗神岳頂上は直ぐそこだ。右側は目も眩む岩壁だが左側は立派な樹林だからもうビビることはない。おおいに力が湧いて、なんなく頂きに立つことができた。

感慨をもって展望を楽しんだ。渡島半島の数多くの山々は指呼の間に同定できる。噴火湾の向こうも、ニセコ〜羊蹄山、島牧・黒松内の山々もだ。テーブル状の遊楽部岳も、先日登った野田追岳、柱状節理が造る右下がりの黒いバンドの小鉾岳、三角錐に見える砂蘭部岳も手に取るようだ。山座同定の楽しみもほどほどにして、山頂でひとしきり写真を撮った後は、簡単には人を寄せ付けない狗神岳を後にした。セッケイカワゲラが上流に向っていた。落葉層が根回りからのぞいていた。春の森の息吹を語りながらそれぞれ満足の山行だった。


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↓ルート図

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